クリーム

全身小説家のクリームのレビュー・感想・評価

全身小説家(1994年製作の映画)
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先日「あちらにいる鬼」を観賞した時に瀬戸内寂聴さんと不倫関係にあった井上光晴と言う小説家がとても気になり、こちらを観賞。
ほぼ映画の内容とドキュメンタリーでの内容は一致していました。
意外にもそんなに嫌悪感を抱く人物では無かったです。

この作品は、晩年の井上光晴氏を追ったドキュメンタリーで、後半はS字結腸ガンを患いながらの執筆活動が描かれていました。

彼は、一言で言えば、人の言って欲しい事が解る、人たらし。
全ての女性を口説き、3割は虜にするらしい。そして、女性とあらば70代でも平等に口説く。
証言をする女性達が皆、目を輝かせて彼の話をする。
私は、前出の映画内で、妻が離婚しなかったのは、金や子供達の為だと思っていたのですが、妻もしっかり井上光晴に魅了されている人間の一人だった。言葉巧みに女達を言いくるめるのが上手く、母性本能をくすぐるタイプでもあった様だ。
そして、小説ですが「地の群れ」を書いた方だったんですね。どうも彼の生い立ち話が、「地の群れ」に被ると思ってたんですよね。が、この生い立ちや昔話は、どうも嘘が混じっている様で、皆は、口を揃えて、嘘つきだと言います。寂聴さんも妻も妹も嘘つきだと言っていた。祖母は、嘘つきみっちゃんと呼んでいたほど…。
嘘をつかなければ生きられなかったと寂聴さんに話た事があったらしい。
朝鮮人専門の遊郭で童貞消失した話も中学受験が出来無かった話も霊媒をしていた話も満州生まれも嘘。

で、彼の闘病生活。
ガンに侵されていた井上氏の生々しい手術シーンがかなり、ガッツリ撮影されていた。開腹して、肝臓を取り出した所等もしっかり観せます。肝臓(転移していた)ってあんなに大きいんだあ。8時間にも及ぶ手術で、取り除いたのは850gの肝臓だった。
そして、抗がん剤治療等の後、亡くなります。
弔辞は、寂聴さんが読んでいた。

浮気男でイヤなイメージだったのですが、思ったよりイヤなオッサンじゃなくて、普通の方でした。
多分、沢山の女性を褒めてその気にさせるのだが、彼を好きになる女性達は、そう言う人だとわかっていて好きになる。ご本人達がそれで良いなら、こちらは何も言う必要などない。不思議な魅力の男だったのだろう。
そして、闘病生活の中で少しでも多く小説を書き続けたいと言っている姿や死にたいする思いを口にする姿は、とても素直で、小説を愛する普通の人間だったのだと思いました。
映画と本人像って、結構違うものなのですね。鵜呑みにしたらいけませんね。気をつけようと思いました。

※やはり原一男監督のドキュメンタリーは、素晴らしいです。他も観なければ!
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