トールキン

福田村事件のトールキンのネタバレレビュー・内容・結末

福田村事件(2023年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

実際にあった出来事のお話だけど、絶対にあってはならないことが100年前に起きてしまう。日本人が罪も無い日本人を一方的に虐殺してしまうという何とも痛ましい出来事。やり場のない怒り、起こってしまってから間違っていたと分かっても後の祭り、そして虚しさだけが残る。虚しさの感情が高まって涙が出た。映画を見て、感動や興奮とはまた別のそんな涙が出るってなかなかこれまでに経験ない。胸くそな気持ちに変わりないが、良くも悪くも素晴らしい作品だった。

日本の歴史の闇に葬り去られてきたこの出来事を映画化するにあたって製作は難航を極めたらしいけどクラウドファンディングを募り、何とか世に公表させた森達也監督に賛辞を送りたい。私たちがこの作品を見られるということがどれほど凄いことか。見た直後だからこそ素直にそう思うし、多くの色んな方に見てもらって色々感じ取ってもらいたい。そして私たち人間はどう在るべきなのか、とも感じ取ってほしいと強く思う。

登場人物がとにかく多くてそれぞれの思惑が交錯し合っていたのと、当時の時代背景をしっかりと理解してないのと、登場人物の訛りのクセが強くて台詞が上手く聴き取れなかったなど、それらを含めて全ての内容をちゃんと理解できない部分はあったけど、結末がどうなるかが分かっているからこそそこに向けての緊張感やそういった雰囲気だけでもひしひしと伝わり、感じ取れる。

朝鮮人に対して偏見が持たれていた当時の日本。震災による国民の混乱に乗じて徹底的に排他しようと根拠の無いデマを流布させ集団心理を煽り弾圧運動を広げさせる。何でそんなことさせるの?お上がそう命令するから?お国のためだから?当時の時代背景を知らないけど、客観的に見てるからこそただただ悲しくなる。

終盤はもう本当にスクリーンを直視出来ないくらいおぞましい描写の数々。集団心理に一度火がついた群衆というのはその勢いは収まらず感情のままに動いてしまう。言い方悪いけど、マジで頭イカれてんのか、こいつら、人間のやることじゃないよ、マジで。と見ていてものすごい怒りが湧いてくる。何人かはそれはまちがっていると場を制止させようとしたけれど大多数の前では一方的に無力でどうにもならない。でもあの場で輪に入って制止させようとした人たちは本当に勇敢だと思うし、自分だったらどうしただろうと何度もめちゃくちゃ考えてしまう。

差別や偏見っていうのはもしかしたら永遠に無くならないのかもしれないし、自分も含めて誰にでも心の中に存在しているのかもしれない。それはあるとしても同時に、人を思いやる心、もあってほしいと思う。間違っていること、おかしいと思うことを正そうとするその気持ちや思い。なかなか難しいかもしれないけどその気持ちだけでも心に留めておきたい。
世の中が良い風に変わってほしいと、そんな大それたことは思わないがそういう気持ちを持てる人が一人でも多く増えていってほしいと強く思う。

最後にちょっとした余談だけど、レビューを書いている最中にこの作品の公開初日舞台挨拶のネット記事を読んでまた涙が出ました。本当にその通り、と個人的には強く共感出来たし、出演者の方々も、こういう日本映画をもっともっと作るべき、とおっしゃっていたそう。もう一度言いますが、本当に素晴らしい作品なので色んな方に見て頂きたい。
100年前の日本でこんなことがあって、これを見て、見た人がどう感じ取るのか。正に目に焼き付けられた作品でした。
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