CHEBUNBUN

大いなる運動のCHEBUNBUNのレビュー・感想・評価

大いなる運動(2021年製作の映画)
4.7
【ボリビア、大都市での停滞、そして腐食】
第78回ヴェネツィア国際映画祭オリゾンティ部門にて審査員特別賞を獲ったボリビア映画を観た。ボリビア・ラパス出身のKiro Russo監督は長編デビュー作『Viejo calavera』に引き続き鉱夫を主人公にした物語を紡いだ。これがユニークな傑作であった。

ボリビアの歴史は鉱山と共に歩んだといっても過言ではない。世界遺産にもなっているポトシ銀山は、かつて石見銀山と並ぶ銀の産地であり、世界経済を回していた。ポトシ銀山では水銀アマルガム法を用いて銀を抽出していた。そこで働く労働者は水銀中毒になったり、粉じんの吸引してしまい多くの者が命を落とした。また、鉱山労働者は奴隷のように働かされた。つまりボリビアの資源による発展の歴史は血と涙でできているのである。

『El gran movimiento』では、そんな鉱山の負の歴史を纏っている。フィルムの粗さが茹だるように暑いボリビアの街を捉えていく。街の中心では、鉱山労働者がデモを行なっている。この地に若者エルダーがやってくる。鉱夫として復職するため、都市にやってきた。しかし、彼は都会の熱気に打ちのめされて気分が悪そうだ。なんとか市場で木箱を運ぶ仕事を斡旋してもらうが、あまり体調が良くないように見える。酒が彼の痛みを和らげている。そんな中、山から浮浪者のような男マックスが降りてくる。市場の人は、「お前のことはもう信用できない。」とあしらう。彼の正体は呪術師であり、エルダーの病を治そうとする。

本作は、都市によって時間が融解し朽ち果てていく様子が描かれている。鉱夫として病を抱えているエルダーは大都市で夢を掴もうとするが、暑苦しい激流に呑まれてしまう。マックスは、大都市によって消耗したエルダーの将来を象徴しているように見える。若さを失い、用済みとして社会から拒絶される痛みがマックスにあるのだ。

マックスがエルダーを救うことは、自分を救うことでもある。終盤、走馬灯のようにフラッシュバックする大都市の記憶に泣けてくるのは、停滞したエルダーの刻に感傷的になるからであろう。過酷な労働で発展の使い捨てとして扱われる存在、都市で消耗して人生を終える存在。社会はこれらの存在による血と涙の結晶でできているとKiro Russo監督は物語っているのである。

さて、もう一つ印象的な場面について語るとしよう。それは、街の中でいろんな人が踊る場面である。日本のアニメでは世界観を表現するため、オープニング映像で様々な登場人物が踊りがちだが、同様のことをこの作品は行なっている。ボリビアの顔を表現するように、横に並んで踊る場面は印象的であった。
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