sanbon

劇場版 PSYCHO-PASS サイコパス PROVIDENCEのsanbonのレビュー・感想・評価

3.8
【注意】シリーズの復習要必須作。

今作は「シビュラシステム」の独裁を唯一阻める「刑法」の存在を死守する為に「公安局一係」と「外務省行動課」の面々が死闘を繰り広げるストーリーとなっている。

それにしても「免罪体質者」やシステムの弱点を突いて、犯罪を犯してもシビュラに感知されず、執行対象から逃れられるケースを何度となく描いてきたこのシリーズで、シビュラが機能しない場合の穴を埋める最終防衛ラインである法での執行を、人間自身が亡き者にしようとしているという展開はどうにもゾッとしない話である。

そんな今作は、時系列が逆行しているのが最大の特徴となっており、位置づけとしては「PSYCHO-PASS  Sinners of the System Case.3 恩讐の彼方に__」とTVアニメ3期「PSYCHO-PASS 3」の間の物語となっている。

だからこそ、過去のストーリーを知っている事で得られる驚きに満ちているし、時系列の順番を3期と逆にすることで生まれる面白さや、伏線回収のカタルシスも効果的に味わえる仕様となっている。

故に、僕は鑑賞後しくじったなという思いでいっぱいになった。

今作の公開日がたまたま休みで、前日に公開日であることを思い出し、それなら特別予定もないし観に行こう!と急に思い立って行動に移してしまった為、復習というものを全くせずに足を運んでしまったのだ。

もちろん、今作が3期の前日譚であるというのは前もって知っていた事だ。

でも、見始めればなんとなく分かってくるだろうと過信してしまった。

その結果、鑑賞中は一体何が行われているのかちょっとよく分かんない状態となってしまったのだ。

思えば、前作「FIRST INSPECTOR」の公開が2020年3月である。

3年以上前に1度観たきりの内容なんて覚えてるわけなかった・・・( ^ω^)

3期なんてさらに前の2019年だし、なんなら内容もややこしすぎてよく分かってなかったじゃん。

色々と外部情報も取り入れつつ整理した今ならばまだ理解出来ている方だと思うが、正直鑑賞中は難しくってしょうがなかった。

ってことで、これから観に行かれる方は必ず復習をしてから臨もうね!

それにしても、話によれば3期の物語があったうえで今作の脚本の執筆にとりかかったとかで、帳尻を合わせるのがかなりしんどかったみたいなインタビュー記事を読んだのだが、それって3期制作中にはなんで「常守朱」が局長殺しで拘留されてるのかとか、なんで「慎導篤志」に「煇」を殺害した容疑がかけられていてなんで自殺する事になったのかとか、そういう謎として残したところを不明確のまま作ってたって事??

あと、前作で「ラウンドロビン」がシビュラシステムに統合されたように、今作でもあるAIシステムがシビュラと一体化するのだが、3期中にそれが分かるようなシビュラ進化しとるやん!なんで?的なストーリーが盛り込まれていれば尚よかったかな。

とにかく、3期から異様に難しくなった感のある今シリーズだが、今考えると制作から「本広克行」が抜けたのがだいぶ大きいと思う。

本広克行といえば、代表作として挙げられるのはなんと言っても「踊る大捜査線」だろう。

刑事モノの作品に、日常系のエッセンスと殺人事件以外の公務を積極的に取り入れ、これまでとは毛色の違うコメディ要素とシリアス要素を両立させた新しい刑事ドラマを生み出した、日本ドラマ界の功労者である。

もちろん、そのはしりとなったのは皆大好き「パトレイバー」であり、何を隠そうこのPSYCHO-PASSもパトレイバーみたいなアニメを作りたいという本広克行の長年の夢から企画が始まっている。

そして、最近まで新編集版が深夜に放送されていたが、見返してみるとエンタメとしての見せ方が今のシリーズよりもちゃんと明確なのが伺える。

「ドミネーター」のギミック然り「ドローン」の使い方然り「コミッサちゃん」の存在然り、ドミネーターの銃撃を受けて爆散する犯罪者然り、カッコいいと面白いの塩梅がちょうど良くて、陰鬱な展開と派手な演出のバランスも中々に良いのは、悔しいかな本広克行のセンスによるものなんだと思う。

犯罪一つとってみても、猟奇性を高める事でヤバさを引き立たせてとにかく分かりやすい。

それこそ、随所に感じる踊るっぽさがそのまま魅力だったようにも感じる程だ。

そう考えて今作の演出を振り返ってみると、やはりSF感が足りないというか、ダークな雰囲気を重視しすぎていてそれに囚われ過ぎいているように感じてしまう。

重厚だが難解過ぎるストーリーも、それに起因しているように感じる。

なんか肌の色もやけに白くてマネキンみたいだったし。

「ストロンスカヤ文書」というシミュレーション基礎理論に関する文書も、人の心理状態を数値化するというシミュレーションシステムが最も重要なサイコパスの世界観にとって正に基盤とも言える物も、物語が進んでいくにつれて結局何だったのかがいまいちよく分からなくなってしまったし。(ここだけ今でもちゃんと飲み込めてない)

改めて言うけど、みんなよくこれ理解出来たな!

最後は、法を守る手段として世論を巻き込む為に民衆の前で最終手段に打って出る訳だが、この結末は「禾生局長」の正体を知っていて「色相」を保ったまま手を下せる朱にしか出来ない事だったのでそこで溜飲は下がったが、全体的にはしっかり前作までを把握していないと難しすぎる印象であった。

あと「雑賀」さんがソファに首をもたれ掛けるシーンがやたら痺れた。

なんかカッコよかったな。

ところで、今更だが「狡噛」って「スネ夫」だったんだね。
sanbon

sanbon