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旅するエリスバン/マンコ・カパックのhietonyのレビュー・感想・評価

3.8
物語として取り立てて大きな展開が起きるわけではないが、気丈な少年の姿を通して、心温かく前向きになれるような映画だった。

友達のつてで仕事を探しにペルーの街プーノにやって来た主人公のエリスバンだが、現地で会うはずだったその友達がどこか別の場所に出稼ぎに出てしまっており、いきなり独りぼっちになってしまう。
頼れる人もいないなか、色々な仕事を転々としながら日銭を稼ぐ日々。そんな主人公の少年とその街の人々とのやりとりを描く。

ある時は台車のパンクを修理し、ある時は排水溝を整備するために土を掘り、ある時はビラを配りをしたりするが、どれもあまり良い仕事とは言えない様子。バーのウェイターの仕事にありつくも、後入りの女の子に仕事を奪われ長くは続けられなかった。それでも腐らず次の仕事を探すエリスバンに心を打たれる。

独りぼっちのエリスバンだが、街を放浪していく中で優しい人たちにも出会う。ほんのわずかのお金しかないエリスバンに対し、ある人はスープをご馳走してくれたり、仕事を紹介してくれたりする。
エリスバン自身も優しい心の持ち主で、やっと稼いだわずかなお金を、お世話になった人にお返しとしてフルーツを買ってきてあげたりする。

物語の終盤、エリスバンは自分自身の力でお金を稼ぐ方法を思いつく。路上パフォーマンスである。
赤色の土を掘って体に塗りたくり、空き缶を工作して鎧をつくればエリスバン流"ブロンズ像彫刻芸"の出来上がり。
その姿で路上に立つエリスバンは、ブロンズ像になりきっているつもりだろうが、当然素人であるためフラフラ揺れている。お客さんといえば、小さい男の子が一人、物珍しそうに観ているだけ。
画面は暗転していき、人々が歩く音が聞こえる中、コイン受けに1枚のコインが投げ込まれた音が聞こえたところでエンドロールが流れる。
エリスバンはきっとこれからも逞しく生きていく。
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