フジタジュンコ

バグマティ リバーのフジタジュンコのレビュー・感想・評価

バグマティ リバー(2022年製作の映画)
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わたくしはそれなりにクライミングの実践と知識があり(アキレス腱断裂によりほぼ引退状態ですが…)、さらに道産子なもので、栗城史多さんを身近に感じて様々な文献にあたったりドキュメンタリーを読んだり見たりしているわけですが、この作品はなんとも、栗城さんのパブリックイメージそのままというか、彼の死をある意味”美談”にしようとしているように思えて萎えてしまったのですが、その一方で、こんなまっすぐな追悼作品を作ってくれる映像作家(栗城隊のメンバー)がいたのに、なんで栗城さんは引き返すことができなかったのかなとも思いました。

映像は夢枕獏さんの小説をそのまま実写化したみたいでしたし、主演の阿部純子さんの熱演も素晴らしかったのですが、実際に栗城さんのシェルパだったかたを採用し、最後に栗城さんの物語であることを明示されたのは、少々受け入れがたかったです。外貨にものをいわせてシェルパにおんぶにだっこでエベレストに登るというのはよくある話です。第三者からの資料によると栗城さんはむしろこのタイプのクライアントだったようで、とはいえプロの仕事として取り組んでいたシェルパに「家族」と言わせたのは、醜悪ですらないでしょうか。栗城さんをフォローするためのチームで命を落としたシェルパもいるなかで(さらに、カメラマンも絶命しています)、ずいぶんのんびりしていやしませんか。山で自分が死ぬのは、いいです。でも、自分のために、誰かが死ぬのは、クライマー失格です。

監督の心の整理のための作品だということは重々承知していますが、美しい空の映像とは真逆に、もやもやした気持ちが残りました。