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バーバリアンの消費者のレビュー・感想・評価

バーバリアン(2022年製作の映画)
3.8
・ジャンル
モンスターホラー/サイコ/ドラマ/風刺

・あらすじ
舞台はデトロイトの田舎町ブライトムアのとある家
仕事の面接の為に滞在しに来た女性テス
ダブルブッキングにより先客として暮らしていたアーティストの男性キース
物件の所有者でレイプ疑惑のある俳優のAJ
異なる理由でその場所にやって来た3人は地下室に棲む異形の老女“マザー”の脅威に晒される事となる…

・感想
荒れ果てたゴーストタウンにある一軒の家を舞台に地下室に潜む異形と化した老女“マザー”と対峙する事となる男女を描いたホラー作品

シンプルなモンスターホラーとして観れば舞台を家に変えた「ディセント」の様な内容
しかし端々にジェンダーギャップや家父長制、ジェンダーロールの風刺を示唆する要素が散りばめられており、それを踏まえて観ると少し毛色が違う作品だという事が分かる
ゴーストタウンは忘れられた歴史
家の地下空間はそこに秘められた業の深さ
マザーは母という役割に押し込められてきたが故に慣習に固執する遺物としての老いた女性達
それぞれが象徴する物が掴めてくると一気に生々しいおぞましさが立ち上ってくる
それと共にマザーの印象もモンスターホラーには珍しく「仄暗い水の底から」や「リング」、「呪怨」の様な悲哀を抱く物へと変化していく
そうした風刺的な悲劇性の高い世界観はアメリカンホラーには珍しいジメッとした物があって良かった
それでいてゴア描写もしっかりあるのでそちらの満足度も高い

一方で作品の本質はマザーにまつわる部分よりも一見すると紳士的なキースや自覚の無いまま性加害スキャンダルに晒されるAJの方にあった様にも思う
自分も男性なので女性の立場や何に悩まされているのか、という事を理解しきれているとは言えない
だからこそこの2人とテスの間に僅かに見えるディスコミュニケーションに身近さを感じ取れる
時代が変わり常識がアップデートされてもなかなか埋まらない溝
これは逆に女性から男性に対しても同じ様な物がある
つまり本作は相互理解を妨げる呪いとしての過去の慣習や意識という物の恐ろしさを分かりやすくする為にそのシンボルとしてマザーという怪物を生み出したんだろう、と
だからこそ女性を攫って子供を産ませ更に近親相姦による出産を繰り返したという家主フランクの所業は“コピー”と評されている

興味深いのは男女間の分かり合えなさを描きながらも最大の敵を過去に縛られた老女に設定している点
実社会でもジェンダーギャップの改善をより複雑化させているのはジェネレーションギャップであるという事は確かで意義のある指摘だった様に思う
男は女の敵、女の敵は女の敵などという単純化された分断を助長する風潮を見事に一刀両断する物としてオチも非常に巧かった
マザーが愛故に過去としての家にテスを縛り付けようとしていたのも含めて

言ってしまえば本作は寓話的作品
だからこそどんでん返しはない
それが惜しい部分となりそうな所をフランクの若かりし頃を間に挟む構成で退屈にさせないという手法も見事
ホラーには恐怖と同じくらい悲哀を期待する人間なのでそういう意味ではなかなか良い作品と個人的には感じた
けどまぁ欲を言えばゴア描写やマザーの容姿をもっとはっきりと見せてくれたら良かったかな
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