真一

遠いところの真一のレビュー・感想・評価

遠いところ(2022年製作の映画)
4.4
 日本社会のセーフティーネットに引っ掛かることもなく、泥沼を這うように夜の街を生きる沖縄少女のリアル。この作品を観ると「努力をすれば報われる」という言葉が、虚しく聞こえます。セーフティーネットの上空で暮らす人々、とりわけ本土の男性に向けられた、メッセージ性の強い作品です。

家庭崩壊。
中卒。
キャバクラ。
15歳でママ。
ヒモ男。
借金肩代わり。
凄惨なDV。
売春。

 主人公のアオイは、誰よりもひた向きに生きる。可愛い2歳の息子ケンゴのため、何とか金を稼ごうともがき続ける幼いママ。でも稼ぎはヒモ野郎に吸い上げられ、カラダはキモい客たちに弄ばれる。

呆然と街を歩くアオイ。
那覇の裏路地。物干し竿。
遠目に見える青い海。
振興策を訴える知事の声。
流れるてぃんさぐぬ花。

唯一の友だちミオと海辺で叫んだ一言が、心を揺さぶります。

「遠いところへ行きたい」

 遠いところー。思い浮かぶのは、沖縄に伝わるニライカナイの伝説です。はるかなる王道楽土、ニライカナイ。アオイも、ニライカナイを夢見たに違いありません。

暴力と搾取。
男と女。
本土と沖縄。

 突き付けられた刃のようなメッセージに、どう答えたらいいのだろうか。「沖縄は気の毒だよな」「男はしょうもないな」とつぶやく以上のことを何もしない自分自身の心根が、問われてしまった気がします。深く考えさせられる一本です。
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