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呪詛のryosukeのレビュー・感想・評価

呪詛(2022年製作の映画)
3.7
 目新しいイメージこそ提示されないものの、全体としてしっかり怖がらせようという意思が感じられて好感触。山奥の小さな呪術共同体の不気味なビジュアルが素敵で、最後の仕掛けも凶悪。見応えがあった。ちょっと家で一人で見るものではなかったかもしれないという気持ちにはなったが......。最近だと『コワすぎ!』もそうだが、怪談においてタブーを侵犯する者の役割を担うのは配信者になっていくのだな。
 遂にタブーを破った後、歯がかゆいという不快感MAXのセリフと共に歯が地面にポロポロと零れ落ち、気づいた時には半裸の男たちの群れが棒立ちでこちらを見つめており、続けざまに友人が天から落下してくる。序盤の無限ポルターガイストもそうだが、カメラを動かすたびに、怪異が延々とそれを追いかけてくる手つきが執念深い。
 ホラー映画にとって厭なアイデアをたくさん出すことは大事なのだが、本作は色々見せてくれる。娘の指示に従って、天井にいる「悪者」と手を繋ごうとして手を伸ばす不吉極まりない挙動。熱した鉄を口内に入れさせる呪い。首の辺りで髪をくしゃくしゃすると共に血が流れ続ける嫌な描写。頭を打ちつけ続けるビデオメッセージ。邪悪な動画が絶え間なく送られてくるスマートフォン。
 地下道の映像はどうも勢いで誤魔化されている感じもあり、大量の手が伸びている様を画面奥でサラッと見せるのは上品なのだが少々物足りないなと思っていると、ラストでしっかりもう一度訪れてくれた。監督のインタビューによるとこの地下道のビジュアルのネタ元は伊藤潤二の『合鏡谷にて』らしい。そう言われると、ラストのビジュアルも『うずまき』の顔が空洞になるエピソードに通じるものがあるように思えてくる。
 娘をおんぶしながら、凧を上げて海岸を走る母親のロングショット。半身不随の娘の代わりに大空を自由に飛ぶ凧。これが作品全体の陰惨な空気の中で一筋の光のような美しいイメージとなっており、観客は母親の願いが救いに結実してほしいと思うのだが......。
 冒頭の観覧車を左右に回させる映像等、観客を強制的に傍観者の立場から引き摺り出し、「参加」させようとしてくるのが嫌だな、映像そのものよりも、画面に赤い紋様が映り、祈りの音声が耳に流されるときの方が身震いする怖さがあるなと思いながら見ていたのだが、クライマックスもやはりそういう仕掛けだった。
 主人公がPC画面を開き、観客が強制的に参加させられる儀式は、早く終わってくれと最悪の気分になる代物だった。念じたくないと思っても耳に音声をねじ込まれると脳内で唱えてしまう習性を利用した凶悪な戦略。そんなことだろうとは思っていたが、観客も呪詛の連鎖に巻き込まれてしまったようだ。続けて、やはり見たくないと思っても仏母の顔を見てしまうし、主人公の問いかけに応じて嫌々ながら名前を捧げてしまう。この世ならざるもののビジュアルを一貫して排除してきた本作において最後に提示される顔は空洞そのもの。この空洞が雄弁に語っているように思える。お前が見るものが恐ろしいのではない、これから起こることが恐ろしいのだと......。
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