ぶみ

ロストケアのぶみのレビュー・感想・評価

ロストケア(2023年製作の映画)
4.0
彼はなぜ42人を殺したのか。

葉真中顕が上梓した『ロスト・ケア』を、前田哲監督、松山ケンイチ、長澤まさみ主演により映像化したドラマ。
42人を殺めた介護士と、彼を裁く検事等の姿を描く。
原作は未読。
主人公となる介護士、斯波を松山、検事である大友を長澤、斯波の父親を柄本明が演じているほか、鈴鹿央士、坂井真紀、戸田菜穂、峯村リエ、加藤菜津、やす、岩谷健司、井上肇、綾戸智恵、梶原善、藤田弓子といった個性派キャストが老若男女問わず勢揃い。
物語は、冒頭孤独死の現場に大友が駆けつけるシーンでスタート、序盤は訪問介護サービスを提供する介護士等の日常風景が綴られていく。
そんな中、サービスの利用者宅で利用者と事業所の所長が死体として発見されたあたりからは、誰が犯人なのかに焦点が当てられるサスペンスとして楽しめるのだが、本作品の真髄はここから。
信念に基づき殺人ではなく「救い」だとして自らの正当性を主張する斯波と、法を背後にして彼と対峙する大友のやりとりは、思わずのめり込んで見入ってしまうものであり、斯波を演じた松山の演技は、思わず斯波の主張が正しいのではと思ってしまうほどのもの。
加えて、最近の邦画では、息子ともども欠かせなくなってきている柄本が、本作品でも影の主役と言っても過言ではないほどの存在感を見せてくれており、多くの監督が起用したくなるのも頷ける。
早川千絵監督の『PLAN 75』では、架空の制度により高齢化社会に対する問題を提起していたのに対し、本作品は、ファンタジー色を廃し、今後日本が突入する超高齢化社会に対して真っ向勝負を挑んだ内容であり、もはや誰もが避けて通れない問題であることを心に刻まれることとなる。
また、高齢化社会になると言うことは、高齢者を支える担い手が少なくなることとイコールであり、斯波が呟く「仕事を休むわけには、いかないんです」と言う言葉から、色々な意味を感じ取ることができた次第。
唯一、残念だった点は、斯波が満を持して申請した生活保護が、稼働能力の不活用を理由にバッサリ却下された描写があったこと。
一昔前までは、稼動能力、つまり働ける年齢で体が元気であれば、それだけをもって却下と言うこともあったが、最近はそんなことは少なくなっているはずであるとともに、そもそも申請に対して審査した結果却下と言うのならまだしも、その場で不受理というのは行政的な手続きとして間違っていることであるため、この描写を入れるのならば、しっかり問題提起もしてもらいたかったところ。
いずれにせよ、考えたくないけれども、誰もが直面する可能性がある問題を、諏訪湖のほとりを舞台に鏡を使った演出で効果的に可視化させ、家族介護なのか、在宅サービスを使うのか、はたまた施設介護なのか、ベストな答えはないかもしれないが、その家族のあり方によってベターな選択肢を選んで行きたいと思わせる良作。

この社会には穴があいている。
ぶみ

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