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ザ・ホエールのSayawasaのレビュー・感想・評価

ザ・ホエール(2022年製作の映画)
3.1
「人は人を救うことはできない」
「けれども人は人に関わらずにはいられない」

物語の始まりと終わりの対比がしみじみ興味深い。肉と霊、詠まれる・詠む、雨と光、転ぶ・歩む。

一つのシチュエーションの中で進んでいく男の1週間。舞台が原作という前提も、構造もThe Humansと似ていた。
中盤まで極めてスローペースだったけど、宣教師の告白から加速度的に面白くなった。

俳優が皆揃いに揃って演技が上手かった。特に娘役のセイディー・シンクとリズ役のホン・チャウ。人ってあんな表情できるんだな、と。

人の多面性を正面から描いてる点は良いけど、過食を通じた自傷行為とそれに機を発した緩やかに進む死の中で「正直でありたい」という主人公の願いはいささか独りよがりだった。
全体を通じて「人って独りよがりなんだよ、でも正直に生きたいという気持ちは尊重されるべきかもしれないんだよ」「社会において生じるこの矛盾、一体どう受け止めてor正当化して人は生きればいいのよ」的なことを示したいのかなと思ったけど、それにしてもあまりにもなにもかもが独義的すぎると感じた。自己の肯定に他人を使うなよ、と言う気持ち。

また、娘の行動の意図と帰結の偶然の結びつきはそのまま肯定していいのだろうか?「結果がすべて」「良い結果なら、その邪悪な意図すらもポジティブに受け止める」というのはあまりにも負の側面を他人事化している気がする。結果をもって邪悪さが許容されたなら、先般の和歌山での首相の爆発物の件も肯定されてしまいはしないか?
また、本当に良い結果だったのかなんて誰にもわからない。個人的には故郷に帰ってめためたにされたというパターンもあるのでは?と思った。

元妻、娘、リズにとっての人生は?これまでの時間の持つ意味は?チャーリーと形成してきた何らかの結びつきは?と個人的には頭にずっとはてなが溢れていた。
一方、隣の女性は静かに泣いていた。
観る人の価値観が反映されるのだと思う、やや珍しい映画だった