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PLAN 75の821のレビュー・感想・評価

PLAN 75(2022年製作の映画)
4.5
薄暗い闇の中鳴るクラシカルな音楽と、ぽつ、ぽつと灯る光に、どこかの瀟洒なホテルラウンジかしら…と呑気に眺めていたら、ピントが合ってくるにつれて胸を抉ってくるようなオープニング。超高齢化社会を迎えた日本において、安楽死が合法化された一つの未来の形があまりにも「説得力があって」「起こり得るようで」末恐ろしさを感じながら鑑賞してしまいました。

他国での様子は知りませんが、日本でいざ高齢者に対する安楽死を合法化した際、特有の同調圧力でその選択を強制される一定の層の人たちが出てくることは安易に想像できた。そして、それが身内との縁が薄弱だったり、貧困層にあったり、社会と孤立した弱者的立場にある人に集まることも。
また、ビジネスライクにラッピングした「安楽死」というシステムを実際に現場で高齢者に向けて販売したり、サポートするのが若者たちであることにも構造の歪さを感じ、そこにまたリアルさを感じてしまった。「他人事」として割り切り深く考えず、生きるための仕事として淡々と職務をこなしてゆく若者2人の姿、そして彼ら/彼女らが迎える変化、終盤に、瞳に宿した力強さが、鑑賞後半年が経とうとする今でも鮮烈に印象づいている。

主演を務めた倍賞千恵子や、哀愁の漂いまくった叔父を演じたたかお鷹も見事だったけど、自分の立場的には磯村勇人や河合優実の姿に「自分ごと感」を強く感じながら鑑賞してしまった。しかし、本作を劇場で見た時、観客層はお年を召した方が大半だったのだけど、皆様この作品を平然と鑑賞できたのだろうか…。自分が歳をとった時に、直視できる自信が全くないです。あと、PLAN75施設で働くマリアの存在にも救われるものがあったな。

日々日本で感じる他者に向ける余裕のなさ、世代間の分断から生まれるこのような未来が、現代と地続きでないことを切に願います…。

それにしても、磯村勇人はめちゃくちゃスタイルがいいですね。登場時、普通のスーツを着たサラリーマンなのに、体躯のバランスの良さ、画面映えする様子に目を奪われました。一緒に観に行った夫とも、共感した部分だった。笑
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