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ライズ・オブ・レジェンド-楚留香、覚醒す-のShingoのレビュー・感想・評価

2.8
古龍と言えば、金庸・梁雨生と並ぶ、武侠小説の大家。その古龍が生み出した最も有名なヒーローが楚留香だ。残念ながら邦訳は少なく、私は「楚留香・蝙蝠伝奇」しか読んだことはない。「絶代双驕」は邦題「マーベラス・ツインズ」として刊行されているようだが、表紙はアニメ調のラノベ仕様。

「楚留香」シリーズも、ある意味ではラノベっぽい。
主人公は義賊で、盗賊の中の盗賊・盗帥を名乗っている。盗みに入る時は必ず予告状を出し、お宝を盗んだ後には、花の香を残していく。ゆえに「楚留香」。武術の達人でイケメンで、3人の美女を付き従えている。
なんとも完全無欠の主人公である。

本作は、その「楚留香」のエピソード0、盗帥となる以前の物語で、原作とのつながりも意識されたつくりになっている。
神水宮の宮主、水母大姫の後継者である水母陰姫は、原作にも登場する強敵。ただし、時系列的にみて本作に登場する水母陰姫とは別人だろう。
また、本作の悪役は「東瀛(とうえい)」から中原にやってきた「天豊十四郎」と呼ばれる男だが、これは「血海飄香」に登場する天楓十四郎がモデルと思われる。
ちなみに「東瀛」は日本のことであり、劇中でも屋台で寿司を食べるシーンが登場する。字幕で見ると、鎧兜を来て号令をかけるシーンで、日本語をしゃべっていた。(割と発音は良くて、普通に聞き取れる)

78分と尺が短い割に、ストーリーは凝っている。神水宮から天一神水を奪うため、天豊十四郎は神水宮の門弟・霊児をたぶらかし、秘密を探らせる。それがばれて霊児は追放されるが、忍術・無相功を身につけ、顔を変えて水母大姫の命を狙う。

慕千羽は霊児が追放された一件を知っているため、最初から楚留香を信用しておらず、彼の善意を利用して、黒幕をおびき出そうと画策。その結果、楚留香の師匠・蘇さんは命を落とすことになる。

十四郎と霊児は川辺で愛を誓うが、その姿は楚留香と慕千羽(水母陰姫)が川辺で酒を酌み交わす場面と相似形になるように演出される。
そうすることで、十四郎にだまされた霊児の悲哀が強調されるし、楚留香と慕千羽の深い愛が際立つ。さらに、楚留香の命を救うため、慕千羽は20年間、幽閉されることになる。

「白蛇:縁起」も、白は宣への想いを500年にわたり胸に抱き続けていたが、そういう展開が中国人はお好みなのだろうか。
金庸「神鵰侠侶」でも、小龍女は谷底に長年にわたり閉じ込められるが、楊過と再会し、ついには結ばれることになる。ただ一人を想い続けることを理想とする感覚は、日本人以上に強いのかなと感じられる。

師匠の娘であり、幼馴染である蘇蓉蓉が、慕千羽に嫉妬してジャガイモを粉々にするシーンは、いじらしい。父親に「他にいい男がみつかる」と言われ、「いなかったら?」「私がいる」と抱きしめられるシーンは、いい親子だなぁとほっこり。

大作ではまったくないが、TVスペシャルくらいのつもりで見れば、十分以上に楽しめる内容。アクションに新鮮味はないが、船上での戦いや、毒王谷でトラップを回避しながらの救助場面など、見どころは多い。
古装片が好きな人なら、見て損はないだろう。

主演のディラン・クォは40歳という年齢ながら、そのイケメンぶりはまだまだ現役。カン・ニンは日本人にも馴染みやすい美人で、「悠久の縁(えにし)~百霊潭~」などドラマ出演が多いようだ。
この二人が並んだ絵面を見るだけでも、目の保養になる。
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