風に立つライオン

オードリー・ヘプバーンの風に立つライオンのレビュー・感想・評価

オードリー・ヘプバーン(2020年製作の映画)
3.7
 2020年制作、ヘレナ・コーン監督によるオードリー・ヘプバーンのドキュメンタリー伝記映画である。

 劇場で鑑賞したがやはり中高年を中心にそれも夫婦連れが多かったように思う。つまりは彼女の場合、性別を問わずファンが多いということだろうと思う。

 彼女は幾多の女優の中でも唯一無二の存在で、その輝きと可憐さはまさに天使そのものと言っていい。
 

 オードリーは映画はもちろんであるが各方面でも活躍している。
 ファッション界ではジバンシーとの共同作業により一つのカテゴリーを創り上げたと言ってもいい。
 つまりは芸術家同士が相乗効果によってあのファッションブランドを構築していったとも言える。

 スクリーン上の白眉はとりわけ「ローマの休日」の冒頭の謁見シーンでその品格ある初々しいしさは印象的であり彼女を見出したワイラー監督の眼力は素晴らしいの一言。
 また、「ティファニーで朝食を」での黒のロングドレスと真珠の首飾り、髪のアップはその後ひとつのアイコンとなり得ている。

 その後ショートヘアーにしてもヘップバーンカットとして大流行していく。もちろん「ローマの休日」でのショートヘアーも当時はヘップバーンカットとして世界中でもてはやされていた。

 こうして彗星のようにあの時代に現れた女優オードリー・ヘプバーンのその後の輝くばかりのスター人生に実は隠された壮絶な過去があったことに驚きをもって鑑賞した。

 信じられないことであるが彼女自身は自らに劣等感を抱いて、そんな自分を女優として扱ってくれることに感謝し、時間は厳守、台詞は完璧、周囲への礼儀と尊敬を欠かさなかったという。

 血筋の中にベルギーの貴族の血が流れていることは承知していたが、両親がナチス指示者で父親からの愛情を受けずにオードリーが少女時代に両親が離婚、特に父親からの愛情が注がれなかったというトラウマが人生に大きく影を落としていたことがあったのは驚きである。
 第二次世界大戦下ナチスドイツへの抵抗運動であるレジスタンスに加担しオランダでの5年間の占領を生き抜いている。
 この時期に食料援助がユニセフから行われたことが後年、彼女がユニセフに関わることに繋がり多くの飢餓に苦しむ子供達に救いの手を差し伸べることとなる。

 実際のオードリーは華やかな銀幕と社交界の裏側で孤独を味わいつつ家族愛を渇望していたのである。
 俳優メル・ファーラーにはやはり父親的な愛情を求めていたのかもしれない。本編にも登場する一男ショーンをもうけているがその後離婚。
 二人目の夫はイタリア人の精神科医アンドレア・ドッティで200人以上との浮気にオードリーは苦しめられる。そして一男ルカをもうけて離婚。
 その後オランダ人ロバート・ウォルダースと同棲し、彼女の人生で最良の時となる。
 オードリーはこの9年間に穏やかで安寧な日々を送りつつ、この間にユニセフの大使として活躍することになる。
  
 ところで彼女と名曲「ムーンリバー」は切っても切り離せないが、当初プロデューサーはオードリーが窓際で心を込めて切なく「ムーンリバー」を唄うシーンをカットしようとしたらしく、オードリーが猛反発して封印を回避したというエピソードがある。
 「マイフェアレディ」でも劇場版のジュリー・アンドリュースとの比較により歌部分が吹き替えられることになり悲哀を味わっている。
 また、とかく演技力についても辛辣な批評がありはしたが彼女はめげずに頑張り続け世界で最も愛される女優になっていく。
 皮肉なことに世界は内なる彼女が孤独感を抱いていて本当の愛に飢えていたことなど知る由もなかったのである。
 そうしたことが、晩年はスクリーンから遠ざかり家族への愛情を育む生活に専念することにつながっていったのである。

 本編はオードリーの人間的な側面を捉えつつ、過去の名場面や撮影秘話なども織り込まれ、あの輝きある天使が存分に登場し、ファンには垂涎ものであることは間違いない。
 

 愛を欲していたのに愛を発することに没頭して来たオードリー。

 「よし!彼女の映画をもう一度観直そう!」