「耳」ではなく「目」を、澄ませてか…
東京・荒川区のボクシングジム。戦後間もなく立ちあげられたこの老舗ジムも、幕を下ろす時期が迫っていた。このジムに通い、練習に励むケイコ。聴覚に障害がありながら、プロのボクサーであり、注目を集める。熱心にボクシングに打ち込むケイコではあるが、聴覚障害者であること、また女であることへの葛藤もかかえ、さらにそこに、ジムの閉鎖への不安も募る…
聴覚に障害がある人間がボクシングを行うということが極めてリアルに伝わってくる。試合においてはセカンドからアドバイスをもらうこともなく、ラウンド終了のゴングも聞こえない。勝ったかどうかもわからない。
そのなかでトレーナーとの練習は、無言だからこその緊迫感があって、なかなかすごい。引き込まれる。息を呑む。
言葉を発しないので、ケイコの心がなかなかつかめない。「一度休みたい」との言葉だけで気持ちを汲みとっていかないといけない。実際に聴覚障害者に接しているようで、なかなかの臨場感。これが映画の狙いでもあるのか。
聴覚障害者としての葛藤に加え、ボクシングジムの斜陽も目の当たりにして、どこか暗い気持ちになっていたところに、最後の展開は希望を感じさせるもので、そこに少し安堵を覚えた。これは良かった。