ケイスケ

アンネ・フランクと旅する日記のケイスケのレビュー・感想・評価

4.0
“たった1人の命を救うために全力を尽くすべき。たった1つの命でも子供の命は守られるべきだ”

「アンネの日記」を題材にしたアンネ・フランクの映画は多くあるが、アンネの空想の友達“キティー”目線で描いた本作の発想は素晴らしいと思った。キティーが現代のアムステルダムに蘇り、アンネの足取りや現代に与えた影響を辿っていくのが主なストーリーになります。

オランダ・アムステルダムにある博物館アンネ・フランクの家にはオリジナル版のアンネの日記が保管されている。ある嵐の晩、その日記の文字が突然動き始めアンネの架空の友人キティーが現代のオランダに現れる。時空を飛び越えたことがわからず、自分は1944年にいると思っている彼女は親友のアンネを捜してアムステルダムの街を巡る。

傑作アニメ『戦場でワルツを』のアリ・フォルマン監督作。公開当時はあまり話題になった記憶が無かったので、自分も最近になって鑑賞しました。まずアニメーションとして映像がとても素晴らしい。キティーがスケートで街中を走る場面や、アンネの足取りを辿る道中で当時の建物が浮かび上がるところなどアニメならではの演出が光ります。映画スターと死神的なナチスとの戦闘シーンも良い。

本作は当時のユダヤ人迫害だけでなく現代の難民問題にスポットを当てています。つまり今になっても戦争による犠牲者がいるのは何も変わらないということ。そして終盤にキティーが民衆に語りかけるように、一番の被害者はアンネ同様、幼い子供たち。製作時期からみて、偶然にもロシアのウクライナ侵攻と重なったので、また人類史の負の歴史が生まれたことになりますね。なんという皮肉だろう。

アンネの日記は多く読まれているため、日記の内容に懐疑的な人々もいます。それが『否定と肯定』でも描かれたような「ホロコースト否認論者」。アンネへの中傷や、そもそもアンネの存在自体ウソじゃないか?といった意見などがあり、日本でも2014年に「アンネの日記破損事件」がありました。まあこの辺の人たちは何があっても意見を変えないだろうからどうしようもないんですが。

しかし本作でも言っているようにアンネ・フランクが神格化されて伝わっているのも事実です。今では公開されていますが、アンネが思春期の少女らしく性の言及や下ネタを日記に書いていたりもしました。もしかしたら父親が娘を想うため隠していたのかもしれませんね。本作でも猫のくだりでアンネと同居人のペーターがちょっとした下ネタを言う場面がありましたね。あのシーン好きなんだよなあ。

本作はアンネ・フランクの人生を辿りつつ、現代に伝えるべきメッセージを丁寧に描いています。大人が観ても面白いんですが、作り手が最も本作を届けたいのは今を生きる子供たちへではないかと。私はアンネの日記は中学生の時に課題図書で読んだんですが、今でも読んだりしてるのかな?アンネの日記と併せてより多くの人に観てほしい傑作です。私も改めてもう一度読んでみようと思います。