めちゃくちゃ面白かった!
でも面白いだけでは終われなかった。
カオスな世界に投げ込まれ、カオスな感情が渦巻き、後半はなぜ自分が泣いているかわからない。
奇想天外な展開と普遍的なテーマの核融合。
現実に疲れ果てた中年女性のエヴリンはある日マルチバースと繋がり人生のあらゆる別の可能性を体験する。
それ以上のストーリー説明は蛇足だろう。
ただこの世界に自身を投げ入れてほしい。
アカデミー賞の演技部門に前代未聞の4人ノミネートされたのは複数の自分を演じ分けたからではないと思う。
彼らがひときわ輝きを放ち、しかも真に迫る感情を魅せてくれるからだ。
あとはもう何も考えずただひたすらに
脳内をミキサーに入れてかき混ぜられ
最後に辿り着く真実の切実さに涙する。
マルチバースは、人間の脳内に繰り広げられる夢と思考と記憶の混在のメタファーに思える。
だから奇想天外でも私たちの真実が透けて見える。
ただ身を委ねて、夢中になって、
カンフーアクションに興奮して、
あまりのバカバカしさにつっこんで、
笑って、泣いて、劇場を後にする。
そして
なぜか自分の人生が以前よりも
愛おしく思えてくる。
そんな不思議で素敵な映画だった。
気づけば40代半ばを過ぎて、未来よりも過去を振り返ることが多くなっていた。
「もしも、あの時、ああしていれば、今とは違う人生だったかもしれない」
後悔と幻滅と失われた可能性と絶え間なく自分の記憶と旅をしてきた。
そんな幾度も繰り返された人生の問いに対してようやく決着できるかもしれない。
すべてのこと。
すべての場所。
今ここにある。
無限の可能性とただ一つだけの人生。
このひとつの愛。
このひとつの家族。
このひとつの人生。
両親。
妻。
息子たち。
人生を終えるときには、彼らを心から切実に愛した記憶が走馬灯のように巡り、涙しながら死んでいきたい。