ぶみ

ピンク・クラウドのぶみのレビュー・感想・評価

ピンク・クラウド(2021年製作の映画)
3.0
幻想か、もう一つの現実か。
人間の心が暴かれる、<ピンク色>のディストピア。

イウリ・ジェルバーゼ監督、脚本、ヘナタ・ジ・レリス主演によるブラジル製作のスリラー。
触れると10秒で死に至るとされる正体不明の雲が発生し、ロックダウン生活を余儀なくされた人々の姿を描く。
たまたま一夜をともにしたが、そのままロックダウンとなってしまった主人公ジョヴァナをレリス、ヤーゴをエドゥアルド・メンドンサが演じており、この二人の姿が中心となる。
物語は、あらすじのとおり、正体不明のピンク色の雲により、突如ロックダウン生活をする羽目になった人々の姿が描かれるのだが、通常、こういった作風にすると、政府の対応のまずさや、パニックに陥った人々が暴動を起こしたりといったシーンが中心となるところを、本作品は、ロックダウン生活にスポットがあてられるというソリッドシチュエーションものとして仕立てられているのが最大の特徴。
何より、特筆すべきは、コロナ禍以前の2017年に脚本が作成され、2019年に撮影が済んでいたということで、まさに未来を予見していたのではないかということ。
実際にロックダウンに近いような生活を体験した身としては、この話の展開が絵空事ではなく、本当にこんなことが起きるのではないかと想像させるものとなっており、終始二人の行く末に釘付けとなった次第。
特に、一夜だけの関係だったはずが、ともに生活することを余儀なくされることとなってしまったジョヴァナ、ヤーゴ、それぞれの心情の変化が繊細かつ大胆に描かれており、これはこれで考えさせられるもの。
パンデミックが起きてなければ、日本では公開されず、派手な映像や展開もない単なるB級SF作品として終わっていたであろうところを、時代を映し出した作品として一躍脚光を浴びたのも納得の内容であるとともに、細かいツッコミどころは多々あれど、現実との違いを楽しむことができ、制限された生活によるストレスを受けた人々の行く末に、目を離せなくなる一作。

これで現実に戻れるね。
ぶみ

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