"心臓の前に脳が壊れる全ての人へ"
『愛、アムール』、『ファーザー』の系譜に並ぶギャスパー・ノエ作品
夫は映画評論家、妻は元精神科医
仲睦まじい幸せな老夫婦の生活
2人の就寝している寝室のシーンの中心に血のようなものが流れて、2人が写っているフレームを分断する。
冒頭から斬新且つ衝撃的です。
夫は心臓病、妻はアルツハイマー。
今までの夫婦生活は戻ってこない。
時には相手が異物の脅威にも感じる生活。
夫と妻のゆっくりと向かう破滅への道。
お互いの交流を分断したような2分割されたフレームの中、同時進行で描いていきます。
夫婦揃っての重い病気。
自分達の家を守るこだわりと、介護老人ホームへの嫌悪。
2人だけの生活では支え切れないトラブルの発生。
これは自分の実家でも実際にあった出来事。
今回の作品は過去の追体験にも繋がり、かなり堪えました。
夫婦生活破綻後には、自分達のアイデンティティともいえる本、ビデオ、ポスターが捨てられて空っぽになっていく家。
自分という存在さえもが消え去っていき、完全な死を迎える…
夫はイタリアホラー界の重鎮ダリオ・アルジェント、妻は『ママと娼婦』のフランソワーズ・ルブラン。
本当の夫婦、本当の病気のリアルさを感じさせる自然な演技です。
シナリオは15Pほどで、ほぼ即興で演じたとのことです。
ギャスパー・ノエの外連味溢れる過激な描写は息を潜め、静謐ともいえるドキュメンタリーのタッチの人間観察。
しかし、今までのテーマと違い、誰にでも起こりうる出来事。
自分達の未来の悪夢を見るかのような容赦のない作品でした。
エンドタイトルを冒頭に延々と流し、ラストは余韻を与える余地もないままに「FIN」
気持ちが健康な時に観てください。