平野レミゼラブル

永遠の1分。の平野レミゼラブルのレビュー・感想・評価

永遠の1分。(2022年製作の映画)
3.0
【3月11日14時46分。エンタメの力を考えよう】
『カメラを止めるな!』のほか、その後も『たまえのスーパーはらわた』、『ポプラン』等の上田慎一郎作品に撮影監督として参加していた曽根剛が、今度は上田慎一郎の脚本による監督作品を創り上げました。曽根監督は昨年も『ゴーストダイアリーズ』、『リフレインの鼓動』、『二人小町』と3作品も製作するなど多作ですがどれも未見。監督作品としては本作が初めての観賞となります。
主にコメディ作家として活動している上田脚本だけあって本作もジャンルとしてはコメディなのですが、題材に「3.11」を選んでおり「人が大勢亡くなり、今もまだ傷痕が生々しく残っている災害を題材にコメディ映画を作って良いのか?」というテーマで、作中でもその意義を求めていく姿勢がかなり独特の味わいを生んでいます。


あらすじとしては、東日本大震災のドキュメンタリー映画を撮るために来日したアメリカ人監督が、震災の生々しい傷痕やそこで様々な想いを抱えながら生きている人に触れ、敢えて自身の得意分野であるコメディで映画を創ろうと思い立つというもの。
一見、不謹慎にも思える発想ですが、その根底にあるのは「悲惨な現実に対してエンタメはどのような力を持てるのか?」であり、非常に真摯に「災害」と「笑い」に向かい合っています。そして、そのエンタメのジャンルには映画だけでなく「歌」や「お笑い」何なら「食べ物」に至るまで適用され、現在のコロナ禍の中でのエンタメの在り方にも発展させているのが興味深い。

キャストはアメリカ人監督スティーブに『コンフィデンスマンJP』の執事役で知られるマイケル・キダ、その相方のボブに『名探偵コナン 紺青の拳』等で声優としても活躍するライアン・ドリース、ロサンゼルスの飲食店オーナーに『君の眼が問いかけている』のアレクサンダー・ハンターといった日本で活躍する外国人俳優を。また、3.11で息子を失いロサンゼルスに移り住んだ日本人歌手の麗子にラッパーのAwich、スティーブに協力する雑誌記者マキに『ボクたちはみんな大人になれなかった』の片山萌美、スティーブを乗せるタクシー運転手和雄に『マイ・ダディ』の毎熊克哉。


曽根監督は2013年と早い段階から上田氏に「3.11を題材にした映画を題材にした脚本」を打診していたようですが、その中で上田氏は「コメディ作家の自分は門外漢であること」「被災地に行ったこともない部外者であること」を理由に固辞していたようです。しかし、実際に曽根監督と一緒に視察を続け、その中で被災者の方々から悲惨なだけでない、当時の明るい話を聞いたことで希望を見出したとか。
「コメディ作家として出来ること」と、そして「部外者でありながらどのように寄り添えるか」を考え抜いた経験は、そのまま劇中のスティーブ達にも反映されているため、本作は半ドキュメンタリー映画的な側面もあります。

一方であまりに真摯に向き合いすぎて、物語としてはかなり歪だったり、結局コメディとしてもドキュメンタリーとしてもどっちつかずな部分もあるのが難点。スティーブの他に、歌手の視点を入れたことで劇中歌など演出としてはリッチになりましたが、そこも結構散漫な印象がありますしね。
エンタメとメッセージ性の両立は非常に難しいのだなァ…とどうしても思ってしまう側面はありますが、それでも製作側のエンタメの可能性を信じる心をこそ尊びたいし、部外者から一歩進んで何かを発信する勇気と行動力には感動します。


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エンタメの力を考えよう『永遠の1分。』感想
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