Cineman

刑務所のルールブック/賢い監房生活(原題)のCinemanのレビュー・感想・評価

4.0
「刑務所のルールブック」
シン・ウンホ監督
2017年韓国
鑑賞日:2023年10月23日 Netflix

韓国を代表するスター投手がメジャーリーグ契約のためにアメリカに発つ数日前のこと。妹を襲った暴漢をとり押さえるとき鈍器で犯人を殴打したため犯人が脳死状態に陥ってしまい、裁判の結果、過剰防衛で彼には懲役1年の実刑判決が下った。

幼い頃から野球のことしか頭になく世の中のことに疎く、口数少なく真っ正直で誠実ひとすじの主人公と同室になった5人の個性的な囚人たちを中心に、刑務官、囚人ともに濃ゆいメンバーが繰り広げる妙に明るい刑務所生活。
スリリングな展開、シャープな演出、存在感のあるキャスティング、面白さてんこ盛りの面白い人間ドラマです

【物語の概要】
韓国が誇る野球選手(ピッチャー)ジェヒョク(パク・ヘス)がメジャーリーグ契約のためにアメリカに発つ数日前のこと。暴漢に襲われた一人住まいの妹を助けるために追い詰めた犯人を殴打して脳死状態にして彼は懲役1年の実刑判決が下された。
心配する恋人ジホ(クリスタル)を残してジェヒョクは刑務所生活を始める。
ある日ジェヒョクは野球をあきらめて刑務官となった幼馴染のジュノ(チョン・ギョンホ)と刑務所内で久しぶりに再会する。
幼馴染のジェヒョクに助けられながら真面目に刑期を務めるジェヒョクに親近感を持った同室の5人との仲間意識も芽生えてきます。

有名人ジェヒョクに反感を感じて突っかかってくる者、
所内でも独自のネットワークを張り巡らせる強面のヤクザ、
頼んだものをなんでも調達してくれる者、
無期懲役を宣告されている面倒見の良いヤクザのおやじ、
刑務官の行いに疑問を持つと再三直訴状を提出する法律に強い元課長、
手先が器用なギャンブラー、
麻薬中毒でまったく空気を読ない一言が人を苛つかせる元薬剤師、
窃盗罪で何度も何度も刑務所を出入りしているため所内のしきたりに精通している者、
などなど個性あふれる魅力的な刑務所内のメンバーとの生活が始まった。

ジェヒョクは拘置所時代に恨みを持つ囚人に肩を刺されていました。
刑務所で暮らしているうちに左手が麻痺してきたジェヒョクは外部治療を受けますが、主治医が刑務官に「彼の野球人生は終わった」と告げているのを聞いてしまい、インタビューで引退宣言をします。

ジュノの弟で熱狂的なジェヒョクのファンのジュンドルは衝撃を受けて引退反対署名活動を始めます。

ジュノはジェヒョクにもう一度野球をさせる為にジェヒョクの同室の服役者たちに協力を依頼します。
彼らのおかげでジェヒョクは野球への復帰を目指すようになりました。

サウスポーから右投げに切り替えて毎日毎日地道なトレーニングを続けたことにより徐々に肩の状態も回復し140Kmを投げられるれほどジェヒョクは回復して順調な日々が続きました。

ところがある日ジェヒョクの肩を刺した人物が同じ部屋の住人となりました。
その危険人物からジェヒョクを全力で守る同室者たち。
そんなある日。
ジェヒョクの面会に訪れた弁護士が全球団がジェヒョクと契約したがっているという嬉しい知らせを伝えたのですが・・・

【Trivia & Topics】
*個性豊かな受刑者たち。
主役のジェヒョク演じるパク・ヘスのポーカーフェイスぶりがナイス・キャスティングですが、
大金持ちで麻薬中毒のイ・ギュヒョン、
殺人罪で無期懲役の元ヤクザのチェ・ムソン、
傷害致死罪の元陸軍大将チョン・ヘイン、
詐欺罪の元エンジニアのパク・ホサン、
幼馴染のイ・ジュノ、
詐欺罪で元エンジニアのカン・チョルトゥ、
などなど色とりどりのハマり・キャスティングが楽しめます。

*刑務所生活。
明るい刑務所で思い出すのは2019年82歳の時に急性肺炎で亡くなった作家安部譲二のデビュー小説「塀の中の懲りない面々」(1986年)。
「塀の中の懲りない面々」は本人の府中刑務所での収監生活を見事に笑い飛ばした快作だった。

安部譲二は麻布中学在学中から安藤組大幹部の舎弟になったため麻布高校への進学が認められなかった。
その後ロンドンに留学し南ロンドン地区の少年ボクシング大会のライトウエルター級で優勝している。
16歳の時にはオランダでロバート・ミッチャムと殴り合いをしている。
帰国後慶応高校入学し16歳で暴力団構成員となりその後除籍処分されてからも数々の武勇伝を残している。

悪役プロレスラーとして活躍していた時代もあり力道山から「いつでも安藤組に頼みに行くから、ヤクザ辞めてレスリングをやれ」と勧められている。

その後帰国子女で英語が堪能だったので日航の客室搭乗員も勤めたが理不尽な要求をする乗客に腹をたてて殴り退社に追い込まれる。

その後、
高校生時代の矢野顕子が歌い、
現役最長老の天才ジャズ・ピアニスト菅野邦彦が設置するピアノを選びにニューヨーク・スタインウエイに派遣され、
多くの若手ジャズメンを育てた伝説のジャズ・クラブ青山「ロブロイ」を経営。

1981年にヤクザから足を洗ったが、
安部譲二の前科は暴行傷害、賭博、麻薬、青少年保護条例違反など日本国内だけで合計14犯、国外でも複数回の服役を経験し、国外での前科は3犯、国内と国外での刑務所生活は通算8年間に及んでいる。

1984年に山本夏彦に文才を見出されて雑誌「室内」に刑務所服役中の体験を綴った作品が後に「塀の中の懲りない面々」として文藝春秋から出版されベストセラーとなり、1987年に森崎東監督で映画化されている。
https://filmarks.com/movies/2714
https://www.youtube.com/shorts/2lzc-Xv-CKg

何で長々とこんなことを書いたのか。

一度だけ安部譲二さんとお会いしたことがあるからだ。
ある時安倍さんを囲む会食に参加させてもらった。
人並み外れて図体が大きく終始大声で話す面白話で人を楽しませてくれる素敵な人だった。
けれどこの人は絶対に人を殺したことがあるとぼくはその時確信した。
その後ぼくが直接接した人で「この人は人を殺している」と確信させたのは他に二人だけだ。

そんなとりとめもないことを思い出させてくれる面白い作品でした。

【5 star rating】
☆☆☆☆
(☆印の意味)
☆☆☆☆☆:超お勧めです。
☆☆☆☆:お勧めです。
☆☆☆:楽しめます。
☆☆:駄目でした。
☆:途中下車しました。
Cineman

Cineman