なっこ

ミワさんなりすますのなっこのレビュー・感想・評価

ミワさんなりすます(2023年製作のドラマ)
3.1
これは推す側の物語

人生をかけて推したい人がいる、そういう人の物語

現代のシンデレラストーリーは、推しとどうにかなることがエンディングじゃない。推しは推しのまま適度な距離を保って自分を成長させてくれる人。そういうこと、なんだろうか。

ヒロインと、ヒロインの推しをどちらも輝かせながら物語を進めるのは難しそうだけど、この物語は、なりすましのヒロインも映画スターの推しも、とても素敵に描かれていて、最後まで楽しく見ることが出来た。

ここ最近よくドラマで描かれる推しという存在は、推している側にとっては“神”と呼ぶほど崇高な存在であるが故に、どうしても人間味に欠ける人物になりがちであるように思う。けれど、前半でたっぷり魅了された私にとって、この八海様に堤真一さんをキャスティングしてくれたことが、何よりありがたいことだった。彼が演じてくれた時点でもう成功は決まっていたのだと思う。俳優がスター俳優を演じる、それは簡単なようで難しい。本人に近い役柄を演じることは、その人が演じている部分と素の部分が入り混じるような瞬間があるような気がしてる。それが、高岡早紀さん演じる往年の相手役とのカット後のやり取りで垣間見えた気がして、本当にあのシーンは素敵だった。ふとね、思うのよ、市井の人を演じるのが俳優の役目だけど、俳優が俳優を演じようとしたとき、きっと誰か自分の憧れた人をモデルに演じるんじゃないかなって。彼のそれはいったい誰だろう、誰を思いながらこの役を演じただろう…そんな勝手な想像を掻き立てられた。俳優堤真一の日常はきっとこんなんじゃない、それが分かっていても、八海と重なる部分はあるんじゃないかなってうっとりしながら眺めている時間は、私にとっても幸福でした。

ヒロイン松本穂香さんの、どこかとぼけたところのある役どころは、素なのか演技なのか、彼女はほんと、独特な間合いを持っていて、この役にはピッタリ。平凡だ、取り柄がない、なんてことはないことを感じさせるだけの説得力がある。

脇を固める俳優陣も非常に素晴らしい。彼女が家政婦として一緒に働く仲間は、とっつきにくい面もあったけれど最後には本当に離れ難い良い職場だと思わされた。良い先輩で楽しい会話のできる仲間って本当に大事。そして、最後には一番の理解者で、大事な役割を任せてくれた上司の藤浦さんを演じた山口沙弥加さん、完璧でした。彼女のような仕事への情熱を私も持ちたい。彼女とちゃんと分かり合える関係に進めたことがヒロインの成長にもつながっていて見ていてとても快かった。

それと元カレくんね。見ててあんなにイラッとくる人間をヘラヘラと真剣に演じ切れるってすごい。

本物のさくらさんも、何考えてるのかわからない恐さが最後まであってちょっと苦手だったけれど、彼女は最後にはちゃんと自分のやりたいことをやれてるみたいで安心した。

映画オタクのヒロインということもあって、ドラマの根底には映画への愛があるように感じた。映画を劇場で見て、DVDも映画雑誌も買って、セリフを暗記してしまうほど何回も見る…ほんと、ヒロインは映画好きの鏡のような人…ここまでは、出来ないなぁというのが正直な感想だけど、そこまでする価値が映画にはある、と私も思う。ドラマばかり見てないで私もたまには映画館に行かないとだな。
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