ブタブタ

風よ あらしよのブタブタのレビュー・感想・評価

風よ あらしよ(2022年製作のドラマ)
2.5
「わかったぞ!僕は生まれつき働くのに向いてないんだ!(真理)」
Byピノッキオ
いわゆる大杉栄とギロチン社モノ小説・映画等を見るといつもこのピノッキオの金言を思い出す。
働かず、日がな一日詩や歌を詠んでそれで暮らせたら何とよい事であろうか。
大杉栄ら無政府主義者を名乗る人々はそんな世の中を作りたかったのかもしれない。
人々が争わず競い合わず憎み合わず、全ての物を皆で分かち合うユートピア。
しかしそれを実現する為に何か具体的な行動をしたのか?と思えばそんな事は全くなく日がな一日詩や歌を詠んで他者(主に女性)を働かせてばかりでは民衆はついて来ないし、自分の様な愚民にはどんなに高尚な理想を説いたとてそもそも理解出来ない。

詩や短歌、俳句、文学、それ等の才能がいくらあってもパトロンがいるとか才能を金に変えるすべを持ってないとダメだな~と大正から昭和のいわゆる俳人や作家を見てると思う。
《大杉栄》本当に瑛太に似てる美男子。
無政府主義者・社会主義者にして自由恋愛を標榜し数々の女達と惚れた腫れたを繰り返し関東大震災の混乱の中で憲兵大尉・甘粕正彦によって伊藤野枝と共に暴行、惨殺された。
そして幾度となく小説・映画の題材となって登場する。
しかしその生涯について「カッコイイ」とか「憧れる」とか言う感情が湧くことは皆無である。
世の中には美男子に生まれ詩作や文学の才能に溢れ女に不自由せず取っかえ引っ変えで金銭や生活は全て女に頼りきりで働かずとも生きていける男が居るのだな~と大杉栄を見てると思う。
(菊とギロチンではギロチン社リーダー中濱哲を東出昌大を演じてたがイメージ的には東出先生は大杉栄のがあってる)

で本作『風よ あらしよ』ですが原作はもっと面白いのだと思う(未読)
ドラマは伊藤野枝と平塚らいてうのシスターフッド的な方向に行くかと思ったらそんな事はなかった。
未読の原作小説もやっぱり現実を改変してはいない様で、どうせやるならタランティーノみたいに思い切り現実改変して大杉栄も伊藤野枝も死なずアナーキズムによる世界革命が成ったパラレルワールドの世界とか、この辺で誰かやっちゃえばいいのに。

大杉栄も辻潤も基本クズなのでアレをあのまま史実に忠実にやってもダメだと思う。
稲垣吾郎演じる辻潤は単なる穀潰しの尺八男に成り下がってるけど辻潤の凄さは寧ろ伊藤野枝と別れたあとだと思うので。

『風よ あらしよ』は初めてとも言える大杉栄でなく伊藤野枝を主人公とする作品。
婦人解放運動家、無政府主義者、作家、編集者、若くして才能に溢れ時代を何十年も先取りした思想と行動力を持った伊藤野枝。
だがしかし、やってる事は他人の夫を寝とったり、クズ夫を捨てるのは仕方ないとしても子供もあっさり捨てるのはちょっと。
大杉栄と伊藤野枝は似た者同士でありくっ付くのは自然の流れだったのかもしれない。
こういう所が伊藤野枝の正当な評価を妨げている要因だと思う。
この大杉栄と伊藤野枝という人達は御弁舌は立派だが実が伴ってない。
どんなに立派なご題目でも言ってるだけでは机上の空論である。
関東大震災の混乱に乗じて革命を起こすなど恥ずべき行為と大杉は言うが、じゃあいつ革命を起こすのだ?
(林先生じゃないけど、今でしょ!と言いたい)
そして混乱に乗じて行動を起こした軍部・甘粕正彦らによって殺されてしまった。
関東大震災において朝鮮人が井戸に毒に入れている等と言うデマの拡散に始まる朝鮮人の大量虐殺。
軍部はこの朝鮮人が日本人に対して言わば震災を利用して内乱を始めたというデマを利用して大杉栄ら社会主義運動家の一掃を目論む。
いや、そもそもこのデマを流したのは震災を利用して反政府・反帝国主義勢力の一掃を計画した軍部だったのかもしれない。
(最近の研究では大杉栄・伊藤野枝殺害は甘粕正彦よりももっと上から命令が出てたらしい)

大杉栄及び伊藤野枝の生涯についてはドラマチックに見える反面、ドラマや映画にしにくいと思う。
その社会主義運動家、無政府主義者としての思想的な面よりも不倫したり男女関係のもつれで刺されたり(日蔭茶屋事件)その彼らが主張する世界を革命するという壮大な理想や目的に対してやってる事があまりに下世話かつ色と欲にまみれているからである。
アタマのクールさに比べて下半身がだらしなさ過ぎる。

辻潤はその後、精神に異常を来たして精神病棟に入ったり虚無僧になって放浪した挙句アパートの一室でシラミだらけの姿で餓死したという。
享年66歳。
ラストに登場する大杉栄と伊藤野枝の子供の中で大杉が一番溺愛した長女《魔子》はアナーキスト達にまるで大杉栄の革命を実践すべく遺された、何か特別な力でも秘めた選ばれし子でもあるかの様に何度も社会主義運動の象徴として神輿に担ぎあげるべく引っ張り出されそうになるもそれらに一切背を向けて改名して結婚し普通の主婦として生きようとするも大杉栄の娘という呪縛からは最後まで逃れる事が出来ずに言っちゃ悪いが伊藤野枝と同じく不倫の果ての極貧生活の中で51歳の生涯を閉じた(この魔子については松下竜一著『ルイズ 父に貰いし名は』に詳しい)
ルイズ、ネストル、エマ、エマ(同名)と言った名前を付けられた大杉と野枝の子供達も皆改名したらしい。
やっぱりDQNネーム付けられた子供は迷惑だ。

大杉栄を描いた作品で一番面白いのは大塚英志『木島日記:もどき開口』に登場する、小栗判官よろしく黄泉から蘇って再び帝国に戦いを挑む大杉栄。
大杉栄や伊藤野枝、ギロチン社の面々はやっぱりフィクションの世界で活躍する話の方が見たい。
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