割烹

しずかちゃんとパパの割烹のレビュー・感想・評価

しずかちゃんとパパ(2022年製作のドラマ)
4.0
生来のろう者であり写真屋の笑福亭鶴瓶と、その娘で、フリーターをしながら家事や通訳、車の運転を担う吉岡里帆の父子家庭の話。
過疎化が進む町にスマートシティの再開発の話が持ち上がり、再開発に対する町の住民の反対運動のなかで、主人公・吉岡里帆の、再開発事業者・中島裕翔との恋や、鶴瓶からの独り立ちが描かれる。
障害を持つ親の世話のために子が人生を犠牲にしてしまう問題や、反対に親に依存して外に踏み出せなくなってしまう子供自身の問題、ろう者の親に育てられることで人との付き合い方に特性が出てしまうCODA問題、障害の遺伝、聴覚障害者とその家族をめぐる様々な問題に果敢に切り込む脚本。
ドラマにも抑揚があり、鶴瓶、吉岡里帆ともに演技が素晴らしく、ラストに近づくにつれ、ろう者と健聴者家族との緊張感のある感情のやり取りは見事。映像もここぞという時の演出は効果的で、バランスが良い。
また聴覚障害者ドラマの中でも手話の完成度が高く、特に吉岡里帆の手話は自然で生きたコミュニケーションになっており、考証の緻密さだけでなく、演者の相当の努力が感じられる。
パトライトなどの小道具はドラマでもたびたび登場するので珍しくないが、深海の比喩や、手話教育の変遷、パ行の発音の練習、聞こえる世界に生まれてきてかわいそうというCODAへの思いなど、このドラマ以外では見たことのない極めてリアリティのあるろう者ネタが数多く投入され、しかも細かい伏線でそれらを丁寧に解き明かしていくなど、暖かい眼差しで作られている。
壁は乗り越えなくて良い、必要だからそこにある、壁の向こうに行くことが目的なのだから引き返して別の道を行けば良い、というセリフは良かった。
唯一気になったのは、中島裕翔の性格に関して、明らかに発達障害レベルのコミュ障として描かれている点。この特異な特性がなければ吉岡里帆との関係や、地域住民との相互理解は成立していないと思われるにもかかわらず、障害のポジティブな側面しか描かれていないのはご都合主義と言わざるを得ない。ろう者の考証はきちんとやったのに、こちらの障害については大分手抜き。
ともあれ、総合的に見れば、間違いなく良作と言って良い。
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