真田ピロシキ

拾われた男の真田ピロシキのレビュー・感想・評価

拾われた男(2022年製作のドラマ)
3.8
TVで1週間刻みに見てると内容を忘れるので感想を書きにくい。かと言ってディズニーは嫌いなのでディズニープラスには入りたくなかった。そんなわけで忘れる事なく毎週TVをつけて完走。松尾諭って誰だったっけ?ああ、ゴジラのあの人かくらいの認識しかなくて普通ならスルーしそうなものだったが、尊敬する塚本晋也監督が取り上げられてると監督のTwitterで語られてたのでそれで興味を持って見始めた。塚本監督本当に推されすぎ。渋谷TSUTAYAでアメリカで。ビンセント・ギャロの名前も出てくるし。私の感性に響かせるドラマなの?

実在の俳優をその名前で演じさせるドラマは有村架純等でもあったが、有村架純の場合は彼女をそこまでよく知らないのに名前だけが本当のフィクションを撮られても普通のドラマとしか見えず面白さを見出せなかった。しかしこっちは半自伝的な様子で有名な人物を交えて嘘のような本当のような話が繰り広げられ盛り上がりがある。事務所の先輩で付き人をしていた井川遥の癒しに関するエピソードは実体のあやふやな癒しという観念を求め、人を人としてではない人形か何かのように見る当時から今に連なる日本のビョーキが映し出されていて皮肉に富んでいる。松戸諭(松尾諭)が俳優として売れていくと大作へ出演するようにもなるのだが、大失敗作である実写進撃の巨人を名前を変えたりせず出してるのは誠実。監督の樋口真嗣も出ててこの人は好きじゃないけど自分の仕事には自信と誇りを持てる人なんだろうなと思った。それで満を持して『シン・ゴジラ』の「まずは君が冷静になれ」。松尾諭をよく知らなくても映画やドラマを見る人なら楽しめるポイントが多い。

それ以外でも出演者に興味のある人が多く出てて、まず実写『ゆるキャン』で大垣千明のキャラを最高に理解して再現してた田辺桃子!1話限りだが可愛い系から怒れるプロレスラー志望ガールへのメタモルフォーゼはコメディの上手い彼女らしさを感じられる。ずっと『花とアリス』のイメージを持っていた鈴木杏は仕事のできる大人の女になってるし、何より伊藤沙莉ですよ。初対面で「元ヤン?」と聞かれるサバサバした感じ。諭の京都で相手役にマジ恋事件に対するブチ切れと不愉快マックスながらも婚姻届を出しに行く姿。これこそ沙莉の魅力。考えてみるとこのドラマの女性、みんな主体性がある。波風を立てない大人な井川遥も度重なる癒しリクエストに耐えかねてアドリブで反抗したり、黙って言うことは聞いてやらない。 

そんなわけで女性陣の印象が強かったのだが、終盤でアメリカに渡っていた兄貴の武志を演じる草彅剛が一気に持っていった。単身アメリカに行ったは良いがハッキリした目的も当てもなくて何か芽など出るはずもない。世間的にはろくでなしの負け犬である。しかしこの兄貴、金も才能もないが人に好かれる愛嬌はあって、妊娠した女友達を祖母の死に目に会えなくなっても面倒を見て、その子を自分の子でもないのに可愛がる優しさがある。日本にいた頃に父親が笑っていた差別的なお笑いに反感を抱いていたことからも理性的な人物で、それを頭で思うだけでなく行動に実践できてて、生産性や優劣でしか人の価値を測れない奴らには分からない魅力がある奴。それを歳を取って草臥始めてる草彅が見事に演じる熟成された味わい。草彅剛は今まで特に思うことのない人だったがこんなに渋みの出せる俳優になってたんだなあと時の流れを感じさせられた。もう元SMAPのなんて言えない。武志や地元の女友達が突然死ぬのは自分が数年前に脳梗塞になり、今も右手神経が炎症起こしてて徐々に体がおかしくなり始めてるので他人事とは思えず、それでも良く人生を過ごし諭を始め多くの人の人生に足跡を残した武志にこうありたいと思わされた。寅さんのような男。最早この国では死に絶えかけている粋を見せて草彅剛に注目。監督の発言で評価を下げているそうだが『ミッドナイトスワン』でも見てみようかな。結果としては松尾愉ではなく草彅剛を感じるドラマになってしまった。