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君、花海棠の紅にあらずのなっこのレビュー・感想・評価

君、花海棠の紅にあらず(2020年製作のドラマ)
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/ストーリー/(BS12HPより)
1930年代の北平(※現在の北京)。京劇の人気俳優の商細蕊(イン・ジョン)は、気性が激しく頑固なため、同業者の中にも多くの敵を抱えている。ひょんな理由で商細蕊の舞台を見ることになった豪商の程鳳台(ホアン・シャオミン)は、客に難癖をつけられている細蕊を救う。その夜をきっかけに2人は友情を育んでいくが、鳳台の妻はそんな夫の変化を快く思っていなかった。そんな中、日中戦争が勃発。過酷な戦火の中、更に二人の絆は深まっていくが―。

/感想/
NHKのドラマ『ストレンジャー~上海の芥川龍之介~』で見た京劇の世界に興味を持って、同じくらいの時代の中国についても知りたいなと思って見始めた。初中国ドラマ鑑賞。
これがブロマンス、なのかな。
男同士の友情がとても美しい。中国では特に家族や知己を本当に大事にするのだということがよく分かった。そして家族以外にはとても冷酷になれる、ということも。
女性の描き方は、時代背景もあって良妻賢母推し感は否めないけれど、内助の功できっちり夫を支えるキリッとした奥様も私は好きだったな。

日本のお盆の時期に放送される戦争もののドラマみたいに、戦争がやってくるくると分かりながら筋を追うのはちょっと辛い。芥川が描いたのはまだ戦争前の中国、その後の様子が少しこのドラマから見えてくるかな、教科書では駆け足の近代史がもう少し実感として分かってくると良いなと思いつつ見てる感じ。

日本にも伝統芸能としてお能や狂言、歌舞伎がある。それと京劇がどんな風に違うのかは、このドラマだけではちょっとつかめない。芥川は、能に見慣れていれば京劇のお約束ごとも分かるし楽しめる的なことを書いていたけれど、、、これは彼のレベルだからこそ出来る発言だと思う。ただ歌の美しさ、中国語の音の美しさは本当に素晴らしい。商細蕊は女役が得意だから、女性が主役のお話が多く、本当に乗り移ったかのように演じる姿には主人公同様惚れ惚れする。素の彼とのギャップも良い。

目まぐるしく変わっていく時代の中で、変わらず芸を伝承していこうとする彼らの姿勢がどれだけ時代の荒波に抗えるのだろうか。伝統芸能の良さは、劇中でも語られるけれど、お話の中で描かれる役柄の胸中を心から共感できる瞬間があること。たとえ日々の暮らしは平凡であっても人生のどこか、何かの瞬間にふと楊貴妃や皇帝の心に深く共感する。物語が鏡となって自分の心を映すときその物語や歌は特別なものになる。気がついたら涙していた、なんてのはそんな瞬間なんじゃないかな。戦争や政争で奪われるのはそんな庶民の娯楽でもあること。そして、一度途絶えた伝統はそう簡単には甦らない。

商細蕊が普段の格好は地味なのに舞台衣装にはこだわっててすごく豪華。独特の化粧だけれど本当に美しくて京劇も一度生で見てみたい。そして、日本のお能や狂言にもますます興味がわいた。伝統芸能にはその国の心が宿る。時代を経ても残していきたい人の想いがそこにはあるのだろうと感じた。
なっこ

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