カニ組長

江戸前エルフのカニ組長のレビュー・感想・評価

江戸前エルフ(2023年製作のアニメ)
5.0
 江戸時代に異世界から召喚されたエルフが現代日本で神として神社に祀られているって設定、斬新なようでいて実はめちゃくちゃ多神教的考え方に根差した発想で、八百万の神々を祀る日本ならではの古くからの価値観がその根底にはある。この作品からは、そう言う古くから受け継がれてきた文化や習慣に対する作者のリスペクトがヒシヒシと感じられた。 
 エルダの江戸豆知識コーナーも作者の深い知識の賜物だが、すごいのは架空の神事を成り立ちから全て創作していること。創作において1から伝統を創作するのはかなり難しいことだと思うが、それを高頻度で描けるのは、それだけ作者の民俗学への理解が深いのだと感じる。
 お話は基本的に、引きこもりオタク生活を送るエルダとその尻を叩く役割を担う巫女の小糸との日常を描いたコメディだが、作中では事あるごとに不滅と必滅、変わる者と変わらない者の悲哀が描かれている。いつか必ず死んでしまう人間の小糸と、これからも永く生き続けるエルフのエルダ。お互いにふとした時にいつか来る別れの寂しさを感じたりしながら、それでも今この瞬間を全力で生きる。だって、江戸の世も遠い昔だけど、その時暮らしていた人々の心は現代と大して違いがないように、形が変わっても残り続けるものはある。変わらないものがある。そんな暖かい安心感で視聴者も包み込んでくれる。
 そんな優しい作品だ。
カニ組長

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