Yoshishun

リコリス・リコイルのYoshishunのレビュー・感想・評価

リコリス・リコイル(2022年製作のアニメ)
4.4
第1話から心鷲掴みにされた。
ただ久々にこれはとんでもないやつが来たぞ!と確信したのはやはり第3話だろう。
基本全12話からなる深夜アニメは、さらに全体を4分割して3話ごとにクライマックスが用意される傾向にある。本作も例に違わず、この第3話で今季、いや今年覇権の実力を誇っていた。

最近邦画界期待の星筆頭である阪元祐吾監督だが、本作の日常回や千束の性格にある緩さはこの監督と同じ匂いを感じさせる。誰も死なない平和な世界を望む千束は、喫茶リコリコで働きながら宅配や送迎といったごく普通の日常を生きる者たちの手助けをする。ごく偶に武装せざるを得ない任務を背負わされるものの、基本スタンスは変わらない。実弾はとある理由から使わず、ゴム弾(ただし命中するとかなり痛い)を愛用。緋村剣心よろしく、不殺の誓いを立てている。好きなものは好きなだけ思いつく限り実践するのも千束であり、決して余命宣告を受けているからとか、自分への褒美というわけでもなく、ただ幸せを願う彼女らしさだろう。日常が日常たらしめる背景には、政府非公認治安維持組織リコリスが存在している、という物騒すぎる内容ながらも、千束の存在が本作の魅力を底上げしている。

しかし、千束に限らず、組織単位の失態を全て押し付けられリコリスをリストラされたたきなという存在も忘れてはならない。信念を曲げずに任務絶対マンだったたきな。日常を維持するという目的は千束と同じだが、明確な違いはたきなは実弾を用いる点にある。つまり、不殺の誓いなどなく悪人であれば殺しは厭わないというスタンスである。千束とは対照的なバディとなるのだが、回を重ねるごとに千束の願う日常や平和論に共感しはじめ、徐々に心を開き始める。

前述の通り、第3話が屈指のエピソードでり本作の大きなターニングポイントになるのは、この千束とたきなの関係性が大きく進展する点にある。上司の不始末に巻き込まれながらも組織への復帰を願うたきな、そんな彼女を受け入れつつ復帰意思を尊重する千束。理想の同期関係とでもいうべきか、凸凹ヒットマンコンビの真の意味での誕生に胸が踊った。

その後の二人の関係性を丁寧に描写し、水族館での謎すぎるジェスチャー、たきなのパンツ騒動から発展する休暇、無敵すぎる千束とのじゃんけん等、一つ一つの出来事が確実に彼女らの関係性の発展へと強く紐付いていく。だからこそ、第9話での決意に満ちたたきなの表情とそれを後押しする千束の姿に感動できる。

段々物語の核心に迫っていくにつれ、ストーリーもパンツではしゃいでいたのが嘘みたいにシリアス路線になっていく。特に第8話の千束の真実、そして第10話のミカの本心とそれを受けての千束の返し。キャラクター同士の単純にはいかない人間関係の深さ。その積み重ねがあることで、物語はエモーショナルな結末へと向かっていく。

ここまでキャラ立ちがハッキリしていて、ストーリーも見せかけの治安維持、アメコミにありがちな正悪説の再定義。様々な要素を盛り込みつつも決して破綻していない絶妙なバランスで成り立つ本作。何気ない慣習や約束が後のエピソードの伏線となるため、1話足りとも見逃してはいけない(特に3コールの件は鳥肌モン)。終盤は少し展開の雑さが見受けられたり、すべての始まりである銃密輸事件の全貌が全く明らかにされていない等多少の欠点はあるものの、久々に毎週楽しみに待ち続けた作品と出会えた。是非2期か劇場版でもいいから、続編を希望。
Yoshishun

Yoshishun