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魔法遣いに大切なこと - Someday's dreamersのEegikのネタバレレビュー・内容・結末

3.0

このレビューはネタバレを含みます


雰囲気アニメ

魔法遣い(魔法士)の免許を取るために岩手から上京してきた17歳の菊池ユメを主人公とした優しく静かな物語。
魔法少女モノといっても、2010年代の作品でいえば『ふらいんぐうぃっち』とかに近い、現代日本の日常生活をベースにしたスローライフもの。

とにかく雰囲気が良く、とくに2020年代のいま観ると、20年前…2003年というゼロ年代初期アニメの絶妙な「古さ」が疲れた心にスーッと透き通るように癒される。

ただし、物語の内容、世界観の設定などをちゃんと見ようとするとどう考えても引っかかってしまうポイントが無数にある。簡単にいえば、この世界での「魔法」というのがとにかく万能で強大過ぎるのがヤバい。魔法遣い一人ひとりに固有の魔法があるとか、それぞれの種類の魔法を遣うためには修行が必要とか、そういうのが一切なく、「心を込めて」願えば大抵のことは出来てしまう。複数人を宇宙空間に瞬間移動させたり、東京タワーを大きく捻じ曲げたり(舞台少女もびっくり!)と、「癒し系雰囲気アニメ」の中身は相当にとんでもないことをしまくっている。

そして、その魔法の強大さ、社会への影響に最後まで焦点が当たらずに、主人公の度重なる規則違反の魔法使用も厳重注意くらいで免許を取得できてしまう……。とりあえず目の前のひとを助けるとか、そういう直情的で主観的な動機のみでの強大すぎる魔法の使用がなんやかんやで肯定されていて、ちょっとでもそのガバガバ感を気にしてしまうともうダメだ。

主人公は1話から現金の大量創造(鋳造)をやらかすし、悪いひとが使えば大量殺戮兵器にもなり得る。最終話の認定試験でもユメがやったのは故人の霊?記憶?を呼び出してトラウマを解消するという、普通にそれが認められてしまったら人間社会の根幹が容易に崩れる魔法であり、それが感動的なフィナーレに続くのはどうかと思う。深夜アニメというよりは児童書のようなトーンなので、こういう社会への影響とか悪用とかを考えてしまうひとは視聴者として向いていないのだろう。大人になってしまった。
物語終盤では「魔法は万能ではない」ことをユメが突き付けられて思い悩むが、こちらとしては、逆に万能過ぎることが問題だとしか思えないので、ええ……と納得できない。いちおう魔法士免許という国家資格が制定されていて魔法庁によって管理運営されているとはいえ、ぜんぜんその管理が機能していないので、ここまで強大な力なら全面的に禁止にすべきだと思う。というか、現実的には、このような魔法が遣える人類が発生した時点でその利用をめぐって世界大戦が起きてもおかしくない。この作品ではなんやかんやで魔法遣いではない市民のみなさん、依頼者のみなさんが節度をわきまえた「良い人」だから、なんか良い話風にまとまっているだけだと思う。

と、文句を吐き出させてもらったが、上記のようなことを一切考えずに脳死で古いアニメの優しい雰囲気を楽しむぶんにはとても良い作品だと思う。

また、主人公のCVが宮崎あおいで、これがめちゃくちゃ良かった。
細田守のオタクなので、『おおかみこども』『バケモノの子』から声優:宮崎あおいは大好きなんだ……。
岩手弁で話す芋っぽい少女を演じる宮崎あおいが聴けるのはこのアニメだけ!!!

サブキャラでは、落語好きが高じて江戸っ子口調で喋るツインテ女子小学生の森川瑠奈ちゃんが良かった。大人びすぎている年少キャラに弱い。
ユメと同期のイギリス人魔法士候補生アンジェラは、8話で突如として冴えない年上の青年に惚れてまっすぐに告白する場面までは最高だったが、なぜかそのあと東京タワーを歪めて「さあ私の想いに応えろ!」的ないかれた脅迫をし出してヤバい女みたくなってしまったのが残念だった。
菊池ユメのデカすぎる3本のアホ毛とかも2003年という時代を感じさせて好き。
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